ゴールポストをずらす上司が組織を壊す

組織が弱くなる原因は数多くあります。市場環境の変化、人材不足、競争激化、技術革新への対応遅れなど、その要因はさまざまです。しかし、現場で実際に起こる組織崩壊の原因を突き詰めると、一人の上司の行動が組織全体に深刻な悪影響を及ぼしているケースが少なくありません。

その代表例が「ゴールポストをずらす上司」です。

ゴールポストをずらすとは、当初設定した目標や評価基準、約束事を後から変更することです。例えば、「今月は新規顧客5件獲得できれば評価する」と言っていたにもかかわらず、達成した途端に、「件数だけでは意味がない。利益率も見なければならない」と言い出す。あるいは、「このプロジェクトが完了すれば昇進候補だ」と言っていたにもかかわらず、成果が出た後で別の条件を追加する。もちろん、経営環境の変化によって目標を修正することはあります。問題なのは、ルール変更の理由が組織のためではなく、自分の都合のために行われることです。

この瞬間から組織の崩壊が始まります。なぜなら、部下は目標を失うからです。人はゴールが明確だから努力できます。評価基準が明確だから挑戦できます。しかし、どれだけ頑張っても後から基準が変わるのであれば、努力する意味を感じなくなります。やがて部下の心の中には次のような感情が生まれます。「どうせ評価されない」「頑張っても無駄だ」

「最低限だけやっておこう」この状態になると、組織は静かに弱体化していきます。

さらに深刻なのは、挑戦する人材が消えることです。本来、優秀な人材ほど高い目標に挑戦しようとします。しかし、評価基準が曖昧で変わり続ける組織では、挑戦するリスクだけが高くなります。すると優秀な人材ほど見切りをつけます。転職する。異動を希望する。あるいは静かにやる気を失う。結果として組織には、「言われたことだけやる人」

「責任を負わない人」「目立たないように働く人」ばかりが残ることになります。これでは成長するはずがありません。

また、ゴールポストをずらす上司は部下の信頼を失うだけではありません。

部下同士の関係まで壊してしまいます。なぜなら評価基準が不透明になると、人は成果ではなく上司の顔色を見るようになるからです。「あの人は上司に気に入られている」「評価は実力ではなく好き嫌いだ」という疑念が広がります。すると協力よりも保身が優先されます。チームワークは失われる。情報共有も減る。組織の空気は一気に悪化します。

実は、優れた上司ほどゴールポストを動かしません。目標を明確にする。評価基準を事前に共有する。環境変化で変更が必要な場合は理由を説明する。そして何より、自分自身も同じルールに従う。だから信頼されるのです。部下は安心して挑戦できる。失敗しても学習できる。組織全体に前向きなエネルギーが生まれる。組織は戦略だけで強くなるのではありません。制度だけで強くなるのでもありません。人が信頼できるルールの上で行動できるから強くなるのです。

ゴールポストをずらす上司は、自分では組織をコントロールしているつもりかもしれない。しかし実際には、組織から信頼を奪い、挑戦する意欲を奪い、成長する力を奪っています。そして最後に失うのは、部下の信頼ではありません。上司としての存在価値そのものです。組織を成長させる管理者はルールを守らせる人ではありません。

まず自らがルールを守り、信頼を積み上げる人なのです。

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