ビジネスの現場では、日々さまざまな問題が発生します。売上の低迷、顧客離れ、離職率の上昇、生産性の低下など、その現象は多岐にわたります。しかし、優れた経営者や管理職、営業担当者ほど、目の前に見えている問題だけにとらわれません。なぜなら、本当に解決すべきものは「問題」ではなく、その奥に潜む「真因」だからです。真因を発見するために欠かせないのが、多角的なものの見方です。
例えば、営業部門の売上が低下したとします。表面的に見ると、「営業担当者の努力不足」と考えてしまうかもしれません。しかし、多角的に分析すると別の原因が見えてくることがあります。商品競争力の低下かもしれません。価格戦略の問題かもしれません。競合他社の台頭かもしれません。マーケティング施策の不足かもしれません。あるいは管理職の指導方法や組織風土に原因がある可能性もあります。もし「営業担当者の努力不足」という一つの視点だけで対策を打てば、訪問件数や電話件数を増やす指示が出されるでしょう。しかし真因が商品力や市場環境にあった場合、どれだけ努力しても成果は上がりません。結果として現場は疲弊し、問題はさらに深刻化してしまいます。つまり、真因を見つけられなければ、解決策そのものが間違ってしまうのです。
多角的な視点を持つ人は、「なぜそうなったのか」を繰り返し考えます。
問題が発生したときに、「人の問題なのか」「仕組みの問題なのか」「環境の問題なのか」「組織の問題なのか」「顧客側の変化なのか」という複数の視点から検証します。
トヨタ自動車で有名な「なぜを5回繰り返す」という考え方も、実は真因を追求するための手法です。しかし、単に「なぜ」を繰り返すだけでは十分ではありません。異なる角度から問いを立てることで、初めて本質に近づくことができます。また、多角的な視点を持つ人は、自分の思い込みを疑います。人は経験が豊富になるほど、自分なりの成功パターンを持つようになります。しかし、その成功体験が固定観念となり、新しい事実を見落としてしまうことがあります。「以前はこうだった」「業界では当たり前だ」「原因はいつもこれだ」という考え方は、時として真因発見の妨げになります。
変化の激しい時代だからこそ、自分の仮説を一度疑い、事実に基づいて検証する姿勢が求められます。
営業活動においても同じです。顧客が値引きを要求したとき、多くの営業担当者は「価格が高いから受注できない」と考えます。しかし、本当にそうでしょうか。
顧客は価格ではなく、商品の価値を十分に理解できていないのかもしれません。導入後の不安が大きいのかもしれません。決裁者との関係性が不足しているのかもしれません。
真因を見誤ると価格交渉に終始しますが、真因を理解できれば提案内容や説明方法を改善することで受注につながる可能性があります。
問題解決能力の高い人は、答えを急ぎません。まず問題を様々な角度から観察し、事実を集め、仮説を立て、検証を繰り返します。その結果として、他の人が見落としている真因を発見できるのです。
多角的なものの見方とは、単に知識を増やすことではありません。目の前の現象の裏側にある本質を探ろうとする姿勢そのものです。問題の真因を発見する力は、個人の成長だけでなく、組織の成果を大きく左右します。だからこそ私たちは、「何が起きているか」だけでなく、「なぜ起きているのか」を様々な角度から考える習慣を身につける必要があります。その積み重ねが、本質的な問題解決力を育て、変化の時代を生き抜く力となるのです。


