売上主義から利益主義へ。言葉は簡単。でも実装は繊細です。
売上は活動量の指標。利益は価値創出の指標。
この違いを腹落ちさせずに制度だけ変えると、現場は反発します。なぜなら「自分の努力が否定された」と感じるから。
だから移行は、思想→構造→制度→運用の順で進めます。
1. 思想の転換:なぜ利益なのかを共有する
営業利益は売上 − 変動費 − 固定費。
ここで営業が直接コントロールできるのは、主に粗利(=売上 − 変動費)。
粗利率が1%下がると何が起きるか。
売上1億円、粗利率30%なら粗利3,000万円。
29%になると2,900万円。100万円が消える。
この100万円を取り戻すには、同じ粗利率なら約333万円の追加売上が必要(100万円 ÷ 0.30)。
値引きは楽だが、取り返すのは地獄。ここを数字で体感させる。
思想共有のゴールは、「値引きは善でも悪でもない。利益を毀損するなら悪」という共通認識。
2. 構造設計:評価の軸を再定義する
いきなり「利益100%評価」にすると組織は壊れます。
三層で設計します。
第一層:成果(粗利・営業利益)
第二層:質(値引率、アップセル率、案件選別力)
第三層:健全性(回収期間、滞留債権、LTV見込み)
ポイントは売上をゼロにしないこと。移行期はバランス型にします。
例:
移行1年目:売上50%・粗利40%・質10%
2年目:売上30%・粗利60%・質10%
3年目:売上20%・粗利70%・質10%
時間をかけて重心を移す。急旋回は事故のもと。
3) 粗利の見える化:営業が読める財務へ
営業にP/L(損益計算書)を渡しても読めなければ意味がない。
まずは営業用簡易P/Lを作る。
・案件別売上
・案件別変動費(原価、外注、物流)
・粗利額・粗利率
・想定固定費按分後の営業利益
ここで重要なのは、固定費の扱い。
固定費を全案件に機械的按分すると、挑戦案件が不利になります。
移行期は「粗利基準」で評価し、営業利益は部門評価にする設計が現実的。
4. 行動の歪みを予防する
利益基準にすると起きやすい歪み。
・小口高粗利だけ狙う
・将来LTVの大きい低粗利案件を避ける
・長期育成案件を切る
これを防ぐために、LTV(顧客生涯価値)視点を組み込みます。
LTV ≒ 1顧客あたり年間粗利 × 継続年数 − 獲得コスト。
単年度赤字でも、LTVが十分に正なら戦略的にOK。
短期利益と長期価値を分けて管理する。ここが知性。
5. インセンティブ設計の具体
報酬連動は慎重に。
悪い例:
「粗利率◯%未満はゼロ評価」
→ 数字を作るための取引拒否が起きる。
良い例:
・粗利額に比例
・目標粗利率超過分にブースト
・値引き抑制率に加点
さらに、営業利益増分評価を入れると建設的。
前年営業利益+◯%増を評価対象にする。
これなら環境変動も吸収できる。
6. 移行プロセス(実務ステップ)
① 過去3年の売上・粗利・値引率を分析
② 粗利改善余地を定量化(例:平均値引率▲2%で粗利+◯万円)
③ モデル評価シミュレーションを作成
④ 3ヶ月の試行運用(報酬連動なし)
⑤ フィードバック反映
⑥ 段階的本実装
いきなり本番はやらない。必ず影響シミュレーションを回す。
7. マネージャーの役割が変わる
売上主義では「量を追え」。
利益主義では「質を設計せよ」。
マネージャーは
・価格戦略
・案件選別
・顧客ポートフォリオ
・資源配分
を考えるようになる。
営業管理が戦略職に進化する瞬間です。
8. 文化の転換
利益基準が定着すると、会話が変わります。
「いくら売れた?」から「いくら残った?」へ。
そして最終進化はこうです。
「その案件、会社の体力を強くしたか?」
ここまで来ると、営業は売る人から企業価値を創る人に変わる。
移行は一気にやらない。
数字で腹落ちさせ、構造を示し、試し、修正する。
営業は論理で納得すると強い。


