~「売れた・売れなかった」だけでは、営業マネジメントとはいえない~
営業マネージャーにとって、部下を結果だけで評価することは簡単です。「予算を達成したから良い」「達成率80%だからもっと頑張れ」「前年を下回ったから評価を下げる」数字は明確なので、判断にも時間がかかりません。しかし、ここには大きな落とし穴があります。
営業マネージャーの仕事は、単に結果を確認することではありません。結果が生まれた原因を把握し、次の結果が生まれる確率を高めることにあります。部下の営業プロセスを見ずに結果だけで判断していると、次の5つの重要な問題が発生します。
1. 業績悪化の「予兆」を発見できない
最も重大なのは、結果が悪くなるまで問題に気づけないことです。売上は営業活動の最終段階に現れる数字です。営業活動は、顧客接点→ヒアリング→課題発見→案件化→提案→見積→交渉→受注→売上というプロセスを経ています。したがって、今月の売上が好調だからといって、営業活動そのものが健全とは限りません。
例えば、ある営業担当者が3か月連続で予算を達成していたとします。しかし、その裏側では、新規商談が減っている。新規案件が減っている。提案件数が減っている。既存顧客への依存度が高まっている。次期案件のパイプラインが細くなっている。ということが起きているかもしれません。それでも今月は、以前から進めていた大型案件が売上になったため、数字だけは良い。結果しか見ないマネージャーは、「順調だな」と判断します。ところが数か月後、突然売上が落ちます。本当は突然ではありません。問題は数か月前から営業プロセスの中で始まっていたのです。
結果だけを見るマネジメントは「問題が起きてから対応するマネジメント」になりやすく、プロセスを見るマネジメントは「問題が結果になる前に対応するマネジメント」になります。この違いは非常に大きいのです。
2. 「なぜ売れたのか」「なぜ売れなかったのか」が分からない
結果だけを見るマネージャーは、営業成績を説明するとき、「Aさんは営業力がある」「Bさんは営業力が弱い」と人物評価にしてしまいがちです。しかし、これでは改善につながりません。
例えばBさんの売上達成率が70%だったとします。問題は、商談件数が少ないのか。商談は多いが案件化できていないのか。案件はあるが提案につながっていないのか。提案は多いが受注率が低いのか。受注しているが単価が低いのか。値引きが多く粗利益が残っていないのか。これによって打ち手はまったく違います。商談件数が不足している人にクロージング研修をしても、問題は解決しません。逆に、商談は十分なのに受注率が低い人に「もっと訪問しろ」と指示しても、本質的な改善にはなりません。
重要なのは、「結果が悪い」ことと「結果が悪い原因」は別物であるということです。優れたマネージャーは「70%しか達成していない」という結果で思考を止めません。「なぜ70%なのか」を営業プロセスまで遡って考えます。
3. 部下を育成できない
営業マネージャーの重要な役割の一つは部下育成です。しかし、結果しか見ていなければ、具体的な指導ができません。売上未達の部下に対して、「もっと頑張れ」「訪問件数を増やせ」「気合を入れろ」「お客様との関係を強化しろ」という指導になってしまいます。
これでは部下は、「では明日から具体的に何を変えればいいのですか」が分かりません。プロセスを見ているマネージャーなら違います。「商談数は十分ある。しかし案件化率が低い」「商談記録を見ると、商品の説明はしているが、顧客課題を深掘りする質問が少ない」
「次回から商品説明に入る前に、現状・問題・影響について最低3つ質問してみよう」ここまで具体化できます。これが営業指導です。
つまり、結果管理だけでは評価はできても、育成はできない。営業マネージャーは「採点者」ではなく、「部下が成果を出せるようにする人」でなければなりません。
4. 偶然の成功を「営業力」と勘違いする
営業では、必ずしも実力と結果が完全には一致しません。市場環境、担当顧客、競合状況、商品の強さ、価格改定、大型案件など、さまざまな要因が結果に影響します。例えば、大口顧客から大型注文が入り、年間予算120%を達成した営業担当者がいたとします。結果だけなら高評価でしょう。しかしプロセスを確認すると、新規開拓をしていない。次期案件がほとんどない。値引きが多い。顧客との関係が担当者一人に限定されている。という状態かもしれません。これは「強い営業」というより、現在の担当環境に恵まれている可能性があります。
逆のケースもあります。担当市場が縮小する中で、前年並みの売上しか確保できなかった営業担当者が、新規顧客を開拓し、粗利益率を改善し、将来案件を積み上げていることもあります。結果だけを見ると、前者の方が優秀に見えます。しかし、将来の再現性まで考えると評価は単純ではありません。だからこそ営業評価では、結果だけではなく「その結果がどのように作られたのか」を見る必要があります。
5. 優秀な営業の「勝ちパターン」が組織に残らない
これは個人の問題ではなく、組織として非常に大きな損失です。トップ営業が年間120%を達成したとします。結果だけを見るマネージャーなら、「さすがAさんだ」で終わります。しかし本当に重要なのは、「なぜAさんは120%を達成できたのか」です。調べてみると、訪問前に顧客情報を整理している。必ず課題仮説を立てている。初回商談で意思決定者を確認している。案件化後の提案スピードが速い。価格交渉前に提供価値を定量化している。失注案件を必ず振り返っている。といった共通行動が見つかるかもしれません。
これを抽出し、トップ営業の行動→成功パターンの抽出→標準化→若手への教育→KPI・KAI化→組織全体へ展開と進めれば、個人の営業力を組織の営業力へ変えることができます。逆に、結果しか見なければ、その営業担当者が退職した瞬間にノウハウも一緒に会社から消えてしまうかもしれません。「スーパー営業に依存する会社」と「組織として営業力を蓄積する会社」の差は、ここから生まれます。—
結果を見ることと、マネジメントすることは違う
営業マネージャーが数字を見ることは当然です。問題なのは、数字を見たところで仕事が終わってしまうことです。売上90%。ここで、「10%足りない。もっと頑張れ」と言うだけなら、数字を読める人なら誰でもできます。営業マネージャーに求められるのは、その先です。なぜ90%なのか。商談量なのか。案件化率なのか。提案力なのか。クロージングなのか。単価なのか。粗利益率なのか。既存顧客依存なのか。そして、「では、どの行動を変えれば結果が変わるのか」まで落とし込む。ここに営業マネージャーの専門性があります。結果だけを見るマネジメントは確かに楽です。しかし、楽であることと、正しいマネジメントであることは同じではありません。
優れた営業マネージャーは、結果を見る。結果を分解する。プロセスを確認する。ボトルネックを発見する。行動改善につなげる。再び結果を検証する。というサイクルを回します。
つまり営業マネジメントとは、「結果を管理する仕事」ではなく、「結果が生まれるプロセスを管理する仕事」なのです。
悪い結果が出てから部下を叱るマネージャーより、悪い結果が出る前にプロセスの異変を発見し、部下と一緒に修正できるマネージャーの方が、組織にとってはるかに価値があります。営業マネージャーの本当の力量は、「今月いくら売れたか」を説明できることではありません。「3か月後の数字を良くするために、今日、部下のどの行動を変えるべきか」を説明できること。そこに、これからの営業マネジメントの本質があります。


