「マルチタスクができない」営業

営業において「マルチタスクができない」と聞くと、「同時に仕事が遅い人」というイメージを持たれがちですが、本質は少し違います。営業で問題になるのは「複数案件・複数時間軸・複数関係者を並行管理できない状態」です。

営業は本来、「1件ずつ片付ける仕事」ではなく、「10~100件の案件を異なる進捗で動かす仕事」です。そのため、マルチタスク能力が弱い営業は時間が経つほど差が広がります。

1.売上が偶然依存になる

マルチタスクが苦手な営業は、一つの案件に深く入り込みます。

例えば

 A社提案に集中

 B社フォロー忘れ

 C社見積停滞

 D社失注予兆見逃し

本人は忙しいのです。

しかし結果は

「一生懸命やっているのに数字が出ない」になります。

営業成果は、案件数 × 確率 × スピードで決まります。一つに集中しすぎると母数が減ります。すると数字は偶然の受注に左右されます。

典型的な発言

「今月は大型案件が取れたから達成」

「来月は案件がない」

これは営業管理上かなり危険です。

2.案件の賞味期限を失う

営業案件には寿命があります。

例えば

 問い合わせ直後→熱量100

 1週間放置→70

 2週間放置→40

 1か月放置→競合へ

マルチタスクが苦手な人は、「今忙しいから後で」が増えます。

ところが営業は後回しの代償が極めて大きい仕事です。顧客は待ってくれません。

本人は忘れていなくても、顧客の温度は下がっています。

結果、努力量は多いのに成果が少ないという悲劇になります。

3.緊急案件に毎回振り回される

仕事には 緊急かつ重要、 緊急ではないが重要があります。マルチタスクが弱い営業は「目の前」に支配されます。

すると

朝:メール処理

10時:クレーム対応

11時:急な会議

13時:見積修正

15時:上司依頼

17時:「今日やるべき新規開拓やってない…」になります。

常に火消しです。

これが続くと営業活動が「受け身」になります。

4.顧客からの信頼を失う

顧客は意外なほど細かく見ています。

例えば:「資料送ります」→送られない

「来週連絡します」→来ない

「確認します」→忘れる

営業本人は悪気がありません。

しかし顧客側から見ると「管理能力が低い人」です。

営業は商品よりも「人の信頼」が先に売られます。

管理ミスが増える営業は、提案力以前の問題になります。

5.上司から案件を任されなくなる

営業マネージャーは無意識にこう判断します。

「この人に重要案件を渡して大丈夫か」

マルチタスクが苦手な人は、

 抜け漏れ

 期限忘れ

 報告遅れ

 優先順位混乱が起きます。

すると重要顧客が回ってきません。

本人は「評価されない」と思います。しかし実際には「再現性が不安」と見られています。

6.精神的に非常に苦しくなる

ここが深刻です。

複数案件を頭で管理しようとすると脳内メモリが限界になります。

頭の中:

「A社返信したっけ…」

「B社見積いつだ…」

「C社電話必要か…」

常時CPU100%状態になります。

すると

 忘れる

 焦る

 ミスする

 残業する

 さらに管理できなくなるの悪循環です。

営業の疲労の多くは仕事量ではなく「未整理案件」です。

できる営業との決定的差

成果を出す営業は頭が良いというより「外部化」が上手です。

管理対象を頭に置きません。

例えば:

毎朝確認する項目

□今日返信する顧客

□3日以上放置案件

□失注リスク案件

□今週クロージング案件

□次回アクション日付

□紹介依頼先

□新規開拓件数

これを管理表やCRMで可視化しています。

営業は「数字でストーリーを語る」

営業が「数字でストーリーを語る」必要がある理由は、単に売上を報告するためではありません。優秀な営業ほど「数字=結果の報告」ではなく、「数字=未来を説明し、意思決定を動かす言語」として扱っています。

 1. 数字だけでは「点」、ストーリー化すると「線」になる

数字だけを並べる営業:

 売上:1,200万円

 達成率:95%

 商談件数:12件

 新規訪問:40件

これは「事実の羅列」です。

一方、数字でストーリーを語る営業:

「先月は売上95%でしたが、新規訪問40件のうち決裁者接触率は25%しかありませんでした。一方で決裁者接触案件は受注率40%です。現在その改善施策として紹介営業比率を上げています。来月は商談数を増やすより決裁者接触率改善が重点です」

これは、過去→原因→現在→未来がつながっています。

経営や上司が欲しいのは「数字」ではなく、「なぜそうなったか」「これからどうなるか」です。

数字に意味を与えることが営業の仕事です。

2. 「感覚営業」は再現できない

成果が出ない営業会議でよくある言葉があります。

「なんとなく案件が弱い気がします」

「たぶん今月は厳しいです」

「お客様の温度感が…」

これは非常に危険です。

なぜなら感覚は人によって違うからです。

例えば:

A営業:

「案件熱いです」

B営業:

「いや普通です」

上司:

「何を根拠に?」

ここで数字が必要になります。

例:

案件A

・役員面談済み

・見積提出済み

・競合1社

・導入時期2か月以内

・受注確率70%

数字化すると共通言語になります。

感覚は属人化します。

数字は組織資産になります。

3. 未来予測精度が上がる

営業マネージャー最大の悩みはこれです。

「今月本当に達成するのか?」

数字でストーリーを作れない営業は予測が極端です。

例:

「大型案件があるのでいけます」

しかし実際には:

案件数不足

商談不足

提案不足

失注

こうした途中指標が見えていません。

一方、数字ストーリー型営業は:

商談30件

提案15件(50%)

見積10件(67%)

受注5件(50%)

過去データから、

「現在の案件数なら来月4.8件受注」まで読めます。

つまり数字で未来を話せます。

営業は未来を売る仕事です。

自分の数字も未来予測できなければなりません。

 4. 上司・経営層は「因果関係」を知りたい

経営層は売上そのものより、「何が売上を生んだか」を知りたがります。

例えば売上が150%増えても、理由が

・市場要因

・値引き

・大型案件偶然受注

なら再現性がありません。

一方

紹介率20%→35%

決裁者接触率30%→55%

受注率18%→28%

なら因果が見えます。

つまり

行動

プロセス

結果

を数字で説明できています。

営業は売上を作る人ではなく、売上発生メカニズムを説明できる人になる必要があります。

5. 数字で語れない営業は評価されにくい

実際の会社では成果だけでは評価されません。

なぜなら上司は過程が見えないからです。

例えば同じ120%達成でも、

A:

偶然大型案件

B:

紹介比率改善

案件数改善

単価改善

後者が昇格しやすいです。

なぜなら再現可能だからです。

管理職になるとさらに重要になります。

部下に「頑張れ」ではなく、「訪問数は十分だが決裁者接触率が低い」と言える必要があります。

数字は指導言語になります。

6. 顧客提案でも数字ストーリーは強い

顧客も数字で納得します。

悪い例:

「効率上がります」

良い例:

「現状、営業1人あたり月20時間が資料作成に使われています。30人なら600時間です。30%削減なら180時間削減できます」

数字になると顧客は自分事になります。

さらに

現状

課題

改善

効果

というストーリーが生まれます。

営業とは「商品説明」ではありません。

顧客の未来の数値変化を見せる仕事です。

7. 数字ストーリー型営業と報告型営業の差

報告型営業数字ストーリー型営業
売上95%です95%の原因は決裁者接触率低下
案件あります案件構成比が偏っている
頑張ります行動KPIを改善する 
感覚で判断データで判断
結果説明のみ未来予測まで行う

この差は数年後に非常に大きくなります。

「数字を見る営業は多い。しかし数字の意味を語れる営業は少ない。優秀な営業は数字を報告しない。数字で未来を説明する。」

営業の数字は成績表ではありません。

数字は仮説を立て、行動を修正し、未来を予測するための物語の材料です。

そして営業組織が強くなる瞬間は、「感覚」から「数字で語る文化」に変わった時です。

 「数字は評価されるために入力するものではない。次の一手を見つけるために使うもの」

管理職向けなら、「結果管理ではなく、結果が生まれる構造を数字で説明できる人がマネージャー」

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