自分に甘く、他人に厳しい。
あるいは立場が変わると正義が変わる。
これ、実はとても人間的です。脳のデフォルト設定に近い。
ただし――放置すると、かなりコストが高い。
まず前提。
人間は自分を守る生き物です。
心理学では「自己奉仕バイアス」と呼ばれる傾向があります。成功は自分の実力、失敗は外部要因。
この研究を広めた行動経済学者がダニエル・カーネマンです。私たちは合理的ではなく、合理的に見える物語を作る生き物だと示しました。
つまりダブルスタンダードは珍しい病気ではありません。
未訓練の思考の自然状態です。
問題は、そこに気づかないまま固定化することです。
1. 信頼が削れていく
信頼は「一貫性」から生まれます。
昨日言ったことと今日言うことが違う。
自分のミスは事情があるが、部下のミスは怠慢。
こうした振る舞いは、周囲に強烈なメッセージを送ります。
「この人の基準は状況次第だ」
一貫性がないリーダーに、人は安心して従えません。
結果、表面上は従っても、本音では離れていきます。
信頼の損耗は静かです。音はしません。
しかしある日、誰もついてこない現実として現れます。
2. 認知が歪む
ダブルスタンダードは思考の整合性を壊します。
矛盾を抱えたまま維持するには、
さらに言い訳を重ねる必要がある。
これは心理学で「認知的不協和」と呼ばれます。
自分の中の矛盾を減らすために、都合のいい物語を作る。
続けるとどうなるか。
現実よりも自分が正しい世界を守ることが優先されます。
分析力が落ちます。判断精度が落ちます。
営業で言えば、
自分の失注 → 市場が悪い
他人の失注 → 準備不足
この状態では、勝率改善は起きません。
3. 組織文化を腐食させる
リーダーがダブルスタンダードを持つと、組織は学習します。
「ああ、基準は空気次第なんだ」
すると何が起きるか。
・責任回避
・保身
・忖度
・本音の消滅
基準が流動的な組織では、挑戦よりも正解探しが優先されます。
正解とは「上司の気分」。
これは生産性を大きく下げます。
4. 孤立する
ダブルスタンダードは短期的には有利に働くことがあります。
自分を守れるからです。
しかし長期では違う。
一貫性のない人には、深い信頼関係が築けません。
親しい関係でも、こう思われます。
「結局この人は自分優先」
すると本音は共有されません。
表層的な関係だけが残ります。
孤立はゆっくり進みます。
5. 長期的な末路
ダブルスタンダードを持ち続ける人は、
・批判を受け入れられない
・学習が止まる
・信頼を失う
・影響力が縮小する
最終的に「肩書きだけが残る人」になります。
権限はあるが、尊敬はない。
これはかなり厳しいポジションです。
なぜ人はダブルスタンダードになるのか
これは弱さというより、防衛反応です。
自分の失敗を真正面から受け止めるのは痛い。
だから基準を動かして自尊心を守る。
しかし成長とは何か。
基準を他人に合わせることではありません。
基準を自分にも適用する勇気です。
実務的な処方箋
営業マネジメントで使える方法があります。
「基準を文章化する」
たとえば、
・失注時の振り返り項目
・評価基準
・行動ルール
これを明文化する。
曖昧さがダブルスタンダードを生みます。
透明性がそれを抑えます。
さらに強いのは、
「自分にも同じ基準を公開する」こと。
これができるリーダーは強い。
世界は複雑で、人は不完全です。
だからこそ一貫性は価値になります。
ダブルスタンダードは一時的な安心をくれます。
しかしその代償は、信頼と成長の停滞。
一貫性は痛みを伴います。
でもその痛みが、人格と組織を強くします。
基準を守る人は尊敬される。
基準を動かす人は警戒される。
そして組織の未来は、
どちらの人が中心にいるかで決まります。


