手段を目的としてしまう人とは、本来「ある目的(ゴール)」を達成するために使うはずの手段やプロセス(例:KPI、ツール、手順、人脈、フォーマット)が、それ自体が最優先・最終目的になってしまい、本来の成果(顧客価値、問題解決、組織目標)を見失う人・行動様式を指します。
1. 認知的特徴(頭の中のクセ)
手段=正しいという短絡的思考:過去の成功体験が特定の手段に結びつき、それを「正解」として無批判に適用する。
因果逆転(手段が原因に見える):手段の存在そのものを成功因と誤認し、本来評価すべきアウトカムを測らない。
フレーミングの狭さ:問題定義が限定的(例:「売上を上げる=訪問件数を増やす」)で、代替手段や本質的な目的を探らない。
現状維持バイアスと習慣化:合理性というより習慣で同じ手順を続ける。
2. 感情的/動機的特徴
安全欲求(失敗回避):手段に固執すれば責任が明確で評価もしやすいのでリスクが低く感じられる。
承認欲求・評価指向:上司や評価制度が「やったこと」=プロセス(例:報告書の提出、会議出席)を重視していると、それを目的化する。
心理的報酬の即時性:手段をこなすことは短期的に満足を生む(チェックがつく、褒められる)ため続けやすい。
3. 行動上のサイン(現場で観察できる)
KPI/タスクを優先しすぎる:数値や工程は達成しているが、顧客満足や利益は改善されない。
文書やフォーマット重視:提案書やテンプレートの「形」が完成していることを至上とする。
改善が表層的:プロセスの効率化(例:事務処理の短縮)には熱心だが、そもそもの目標の再設定をしない。
責任の切り分けに敏感:手段を守ることで責任回避・曖昧化が図られている。
顧客や現場の声を軽視:実際の顧客成果よりルール順守を優先。
4. 組織的要因(発生・助長する環境)
評価制度が入力(活動)を重視:活動量(コール回数、会議数、報告書提出数)に報酬や評価が連動。
短期KPI偏重:短期の数値を追うばかりで長期価値(LTV、ブランド力)を測らない。
マニュアル文化の重視:標準化を過剰に導入すると例外対応や創造性を殺す。
リーダー自身が手段志向:上位者がプロセス遵守を見せると模倣される。
5. もたらす影響(負の帰結)
機会損失:柔軟な戦略転換や新サービス開発が遅れる。
顧客ロイヤルティ低下:顧客の本当の問題を解かないため満足度が下がる。
士気の低下:現場は「やらされ感」に陥り、創意工夫が消える。
リスクの見落とし:プロセス遵守が目的化すると真正のリスク(市場変化、競合)を見逃す。
6. 判定・診断するための簡易チェック
(多ければ手段化の危険あり)
(1) 「何のためにやっているか」を定期的に説明できるか。
(2) 完成した書類や数値だけでなく顧客の反応で判断しているか。
(3) 代替の手段や仮説を月に1回は検討しているか。
(4) 成果(アウトカム)指標を持ち、それを優先しているか。
(5) 会議は意思決定(目的)に直結しているか、単なる報告の場になっていないか。
7. 具体的な改善(研修プログラム内で扱うべき介入)
A. 意識変革(マインドセット)
「目的→手段」順の常時確認:1分で言える「この仕事の本当の目的」を各自作成・常時掲示。
アウトカム思考の教育:KPIを「手段KPI」と「成果KPI(例:継続率、解約率、顧客NPS)」に分ける演習。
失敗仮説ワーク:手段を変えた場合の仮説検証(A/Bテスト)を計画する練習。
B. スキルとツール(実務技術)
逆算ワーク(目的から逆算して手段を設計):ゴール設定→必須成果→投入すべき手段を記述するテンプレート。
意思決定フレームの導入:First Principles、MECE、Decision Matrix(目的重みづけ)。
Pre-mortem(事前陥没)演習:計画が失敗した理由を先に洗い出し、手段の妥当性を検証。
C. 制度的変更
評価制度のリバランス:活動量(インプット)だけでなくアウトカム(顧客価値・収益)を評価に組み込む。
OKRや成果指向の目標導入:O(目的)を明確にしてキーリザルトで評価。
「例外処理許可」制度:合理的な例外や実験を推奨するための承認ルールを簡素化。


